白い糸

創作物。詩、SS、nanaで作った声劇台本など。「禄田さつ」以外の場合もあります。

涙と傷

小さな嗚咽を漏らしながら、君は僕の体を噛んだ。

「同じことをされてしまうと思うと怖かったんだ」

君は僕の背中に爪を立てる。

分かっている。
君の人生に爪痕を残すような記憶があったことも。
それを僕一人の存在、ましてやこの行為だけではどうしようもできないことも。

分かっている。
分かっているから、僕までもうまく笑顔を作れない。
口角がぎこちなく歪んでしまう。

「それでも、僕は好きなんだよ」
「君のことが好きだ、ゆっくりでいいんだ」
「生き急いで、この行為をしたかったわけじゃない」
「君が生きてることが当たり前って舞い上がってたんだ」

なるべく、僕の涙は声に交わらないように。
小さく、小さく、言い聞かせた。

「ごめんね」
堰を切ったように君は声に出して、泣いた。爪を立てていた背中には手のひらの感覚がする。

流れていく君の涙と温かさを感じ、僕は頭を撫でた。