白い糸

創作物。詩、SS、nanaで作った声劇台本など。「禄田さつ」以外の場合もあります。

破棄され、ーわたなべちひろ

ツイノベル2つまとめました。

 

 

このタイトルを決めるとしたら、なんだろう。「あ」くらいがちょうどいいのかもしれない。そう、特に思い入れもなく付けるような意味の無い内容。手が震え馬鹿らしいと理由付け包丁を投げる。誰にも知られない惨めな復讐未遂だ。

 

死ねという言葉に特に意味はなかった。誰に向けてでもない、この言葉は。もう解散されてしまった手の平も、去っていった人々も、そこにいる意味は無いのだ。「この垢消そうかなあ」潮時やってやつなのかもしれない。寂しさと虚しさで死ねがまた一つ零れた。

キセ と ハルカーわたなべちひろ

「スドウハルカの私を殺したら僕が生まれるかな」

ハルカはくしゃりといら立ちをぶつけるように髪を掴んだ。無造作に伸びた髪がハルカ自身の抵抗を思わせていた。

「生まれっこないんじゃないの、スドウハルカは一人しかいないでしょ。良くも悪くも」

「でも、言ってたよ」

若干、涙が混じっている。

「人間誰しも女や男の部分があって、そのバランスによって性が決まるんだって。私の部分を押し殺せばいいんじゃないの、違うの」

「…その私の部分を殺してもいいと思えるような素敵な女性と恋愛したら変わるんじゃない」

つらつらと出てしまった言葉に後悔する。ハルカの目はぐらぐらと涙ぐんでいた。

「バカ、そんなのできてたら今頃してるから、こんなこと信用してなきゃ言わないから、なんて無神経なの、キセって」

ついに泣き出してしまったハルカを見ていても俺はなんとなく冷静だった。

「ごめん、俺当事者じゃないからわからないし、自分の気持ちもわからない、本当ごめん」

「…私も悪かったよね。ごめん」

泣いたままのハルカの白くて細い腕を掴み、引き寄せ頭をぽんぽんと叩いた。今の俺にはこんな選択しかできない、責任すらまともに持つことができないのだ。

駅のホーム

さっき、手を繋いだ。
さっき、少しだけ君の顔を見た。
さっき、少しだけ君の瞳がうるんだ気がした。

次第に曖昧になっていく。
君との関係が終わるまであと何年、何ヶ月、何日なのだろうか。
肌寒くなっていく。暑い夏をようやく乗り越えて、人肌恋しい季節になってきた。
騒がしい駅のホームの4番線で、一気に寂しさがこぼれ出す。

自販機でミルクココアを買って戻る君に
少しだけ目をあわせて、手を握ってみる。
「ねえ、クリスマス一緒にいられる二人っていいよなぁ」
君も「そうだね。わたしも羨ましいわあ。来年にまた期待しよう」
セミロングの髪が風に揺れる。

電車の発車時刻まであと10分。

期待をやめたいぼくと、明日を生きる君との会話は
言葉の上ではかみ合っているが、気持ちでは、かみ合ってないんだろうなって。
君のことが好きな未来を素直に見ることができない、今がもどかしい。

夕暮れ

ぼくはしんだ。
きみもしんでしまった。
あの日から終わってしまった二人の関係では
お互いを描いて尊重して、笑いあって、幸せを願う事なんてできない。
失敗してしまったのだ。

ぼくときみとの関係。
よく言うじゃ無いか。終わりよければすべてよしって。
どんなに綺麗な思い出があっても、終わりが悪ければ
ずっと脳裏に残ってしまうのだ。

もう、夕方だった。

一緒に歩いて行った坂道も
中々に綺麗で痛い思い出になっていた。
さっさと、君からも学校からも卒業してやりたい。
今日も、天気予報に負けた傘を振り回して歩く。
夕暮れが綺麗だった。

片想い

「恋人みたいじゃんじゃんね」
そうだなぁと適当に指を動かして草を生やしておく。
携帯のみで繋がっているこの関係は
なんとも言えずきりきりと胸をすり減らしていく気がした。

俺は君のことが好きだけれど、というところだ
言わなくても分かるだろう。この救いようのない気持ち。

この感情は好意から生まれるべき存在なんだ、と言い聞かせる。

「また話そうぞ」
少し低めの声が脳裏にこびりついていた。
気軽に話せる仲。何でも話せる仲。
ゲームも楽しめるし、歌のことについても語れる。

気づけば肌寒くなっていた。

遠距離の関係ってこんな感覚なのだろうか。
女々しくなって
恋愛対象外だから安心していられる安堵感に甘えて
枕に顔をうずめるのだ。

もし、もしだ。
この曖昧な気持ちが答えになって
気持ちが口から漏れてしまったら、
もっと胸が痛くなるんじゃ無いか

そして
電波から現実の存在になってしまったら、
もう戻れない感情になるんじゃないかと
考えてしまうのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

nana声劇用に作った台本です。

だいすきな声の方に読んで頂きました。いい思い出です。

嘔吐

君のことが好きだった。
君のことが好きだった。

泣きながら僕は吐いていた
暗闇に不自然についた白い光に
不自然な行為に泣きながら。

「うえっ…うっ…」

咳き込む。
白く浮き出た手首の数年前の切り傷と
もっと前に君に言われたことばが。

「自分を傷つけるのは殺人と同じだから」

多分、もっと君が大人だったら
多分、もっと僕が大人だったら
違ったかもしれない。
でも君も。
悲しそうに、
僕の腕を握ってくれたのは…

君も僕も大人になっていって
まだ僕は君が好きなんだ。
まだ君が好きなんだ。

「手を握ってよう…」

一人のトイレで、僕は泣いた。


 

 

 

 

nana声劇用に作ったものです。

雨の日のこと(小説)

 空はあいにくの曇り空で、そのうち雨が降ってきそうだった。雨のにおいが漂う。今日の天気予報は雨だったっけか。…どちらにせよ外に出てしまったのだからもう少しこの空間に浸っていよう。 

「みんななんだかんだ言って普通だよね」

「そうだねぇ」

マンションの屋上階。煙草をふかして景色を眺めているオレに、背後から高松幸助が言葉を投げかけ、オレも彼のいうことに答え、振り向いた。2ヶ月ぶりくらいに目にした背丈が175センチくらいの黒髪の同級生。若干垂れ目で、左目尻にはほくろがある。これは10数年たっても変わらないのだ。

「ワタシたちも普通になっちゃってさ。割と生きていけるようになっちゃったね」

首をかしげながら、幸助ははにかんだ。オレも幸助につられ、口元がゆがむ。

「それな。もう過去の凝り固まった自分を誇示しなくても生きていけるし。適応力が高いと言えばそれまでなんだろうけど、あのときと比べるとなんてことなかったな」

「ね、割とワタシは高松幸助を演じられるし、そっちは花宮いつきで過ごせてるみたいだし」

「いや、演じてるよりかはもうオレは花宮いつきなんじゃないかなって思うわ」

5メートルの距離がお互いの「持てるはずだった」声を反響させる。笑顔がきれいな幸助はオレの言葉を聞いてよかったとまた笑った。

 オレは半袖のYシャツを着ていたが、幸助は長袖のYシャツを着ていた。そのかわいそうな部分もひっくるめて、現在の「高松幸助」なのだ。煙草を地面に落とし、靴で踏みつけ、

「あんまり自分傷つけんなよ。」

「いつきこそ。」

「別にオレとはその体はもう何ら関係ないけどさ」

一瞬だけ幸助は目を見開くがまたはにかんだ。

「ワタシもそうだけど、単純に心配なんだよ」

「ありがたし」

胸から何か出てきそうだ。下唇をかみつつ、話題を変えた。

性同一性障害みたいな状態かもしれないんだけどさ。」

「言われればそうだよね。」

「でも、オレたちはそこそこ適応できてるし。そんなに特別な存在ではないんだろうなあ」

「もともと異性になる素質あったのかもね」

あははと笑い合うがすぐに沈黙が生まれてしまう。

「ねえ、いつき」

幸助が口を切る。

「何」

「俺、いつきのこと好きだよ。」

男子らしい、先ほどより若干低めの声で、つぶやいた。

「ん、私も幸助のこと好きだ」

じんわりとこみ上げてくるものがある。歯をかみしめ笑顔を作った。だんだんと雲行きが怪しくなり、ぽつりぽつりと雨が降り始める。気づかないのか否か、幸助はそのままオレのもとへ歩み寄った。

「ずっと一緒にいなきゃ、自分の姿を見られないから、自分の行く末が見られないからって、高校まで同じにしたよね」

「生理や精通の気持ちもわからないままだったから本当の男や女になってく”幸助”や”いつき”が憎たらしかった」

「ね。でも、いい機会だったかもしれないなぁ。」

ぽつり、ぽつり。雨のつんとしたにおいの濃度が増す。幸助の目はいつにもまして感情をはらんでいて、オレまで泣きそうになってくる。そっと幸助の制服の裾を引っ張り、大きな体に頭を預けた。

「…オレ、がんばるわ。ずっとバイトしてたからそこでがんばろうと思うし。将来は不安しかねえけどさ」

案の定、涙が混じる。

「いいよ、ワタシもがんばるし。また、遊びに行くね。」

「ありがとう」

「こちらこそ」

身長157センチの花宮いつきの体では、大きな高松幸助の体に収まるには容易だった。雨が段々と降ってきて、しとしととYシャツがぬれる。

 

 性的な違和感もなれ、時間がその他の違和感も飲み込んでしまった。

 

 なんの奇跡も物語も始まらぬまま、オレたちは気持ちまで惹かれ合っていたのだ。